『論文紹介: セラバンドを使用した等尺性股関節外転がブリッジ運動中の大殿筋活動と骨盤前傾角度に与える影響』

  • 2024.7.1
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1. はじめに

大殿筋は人体で最も大きく、最も強力な筋肉の一つであり、股関節の伸展と外旋、骨盤の安定において重要な役割を果たします。しかし、現代の生活様式においては、デスクワークや長時間の座り仕事が増加しており、多くの人が座って過ごす時間が長くなっています。

座った姿勢が続くと、大殿筋の活動が低下します。これは、座っている間は股関節が屈曲した状態にあり、大殿筋が伸びきったままの状態になるためです。この状態が長時間続くと、大殿筋が弱化し、筋肉の活性化が低下する「筋肉の遅筋化」が起こります。その結果、大殿筋は十分に働かなくなり、日常生活の動作や運動時に他の筋肉が過剰に働くことで、姿勢の崩れや腰痛などの問題が発生します。

例えば、座りすぎによって大殿筋の活動が低下すると、立ち上がる動作や歩行、階段の昇り降りなどの際に、ハムストリングスや脊柱起立筋などの他の筋肉が代償的に働きます。これにより、これらの筋肉に過度な負担がかかり、筋肉の疲労や緊張が蓄積しやすくなります。さらに、大殿筋の弱化は骨盤の前傾を引き起こし、腰椎前弯が増加することで、腰椎に不自然な圧力がかかり、腰痛の原因となります。

このように、座りすぎによる大殿筋の活動低下は、腰痛や骨盤の不安定性を引き起こす大きな要因となります。今回紹介する研究は、セラバンドを使用した等尺性股関節外転を取り入れたブリッジ運動が、大殿筋の活動を改善し、骨盤の安定性を向上させる効果について調査したものです。

 

2. 研究の目的

この研究の目的は、セラバンドを使用した等尺性股関節外転(IHA)を取り入れたブリッジ運動が、大殿筋(GM)、ハムストリングス(HAM)、および脊柱起立筋(ES)の筋活動、および骨盤前傾角度に与える影響を調査することです。

具体的には、以下の点を明らかにすることを目指しています:

1. 大殿筋の筋活動の変化: セラバンドを使用したIHAを取り入れることで、ブリッジ運動中の大殿筋の筋活動がどの程度増加するかを測定します。

2. ハムストリングスと脊柱起立筋の筋活動の変化: セラバンドを使用したIHAが、ハムストリングスおよび脊柱起立筋の筋活動にどのような影響を与えるかを調べます。

3. 筋活動の比率の変化: 大殿筋とハムストリングス、大殿筋と脊柱起立筋の筋活動比率が、セラバンドを使用したIHAによってどのように変化するかを分析します。

4. 骨盤前傾角度の変化: ブリッジ運動中の骨盤前傾角度が、セラバンドを使用したIHAによってどのように変化するかを測定します。

 

 3. 研究方法

21名の健康な被験者(男性6名、女性15名、平均年齢22.5歳)が参加しました。被験者は以下の手順で運動が行われました。

1. ブリッジ運動の準備:

・被験者は仰向けに寝て、両膝を90度に曲げ、足を肩幅に開きます。

・ 両手は胸の上で交差させ、腕のサポートを最小限にします。

 

2. セラバンドを使用しないブリッジ運動:

・ 被験者は骨盤を持ち上げ、太ももが床と平行になる位置まで上げます。

・ この姿勢を5秒間維持します。

 ・ この過程を2回繰り返します。

3. セラバンドを使用した等尺性股関節外転(IHA)を取り入れたブリッジ運動:

・セラバンドを膝の直上に巻きつけ、股関節を30度外転させるように調整します。

 ・セラバンドの張力は、被験者が10回以上の股関節外転運動を行える強度に設定します。

 ・同様に骨盤を持ち上げ、5秒間姿勢を維持し、2回繰り返します。

4. 筋電図(EMG)測定:

・筋活動の測定には、Noraxon製の無線TeleMyo DTSとMyo-Research Master Edition 1.06 XPソフトウェアを使用しました。

・EMG信号は1000 Hzでサンプリングし、20〜450 Hzの帯域フィルターと60 Hzのノッチフィルターを使用して処理しました。

・生データは50 msのウィンドウでルートミーンスクエア(RMS)に変換されました。

・電極部位は剃毛し、アルコールで消毒して皮膚インピーダンスを低減しました。

・電極は大殿筋の上部繊維、ハムストリングス、脊柱起立筋の各筋腹の中央に配置しました。

5. 筋活動の正規化:

・最大随意等尺性収縮(MVIC)法を用いて各筋の最大収縮値を記録しました。

・MVICデータ収集のため、被験者は5秒間の筋力テストポジションを保持し、その中間3秒間の収縮値を解析に使用しました。

6. 骨盤前傾角度の測定:

・骨盤前傾角度を測定するため、前上腸骨棘(ASIS)と後上腸骨棘(PSIS)に反射マーカーを配置しました。

 ・被験者がブリッジ運動を行っている間にデジタルカメラで骨盤の写真を撮影し、Image Jソフトウェアを用いて角度を計測しました。

 

4. 結果

本研究の結果は以下の通りです。

1. 大殿筋の筋活動:

・セラバンドを使用した等尺性股関節外転を取り入れたブリッジ運動では、大殿筋の筋活動が有意に増加しました。具体的には、通常のブリッジ運動と比較して大殿筋の活動が21.1%増加しました(P = 0.007)。

2. ハムストリングスと脊柱起立筋の筋活動:

・ハムストリングスと脊柱起立筋の筋活動には有意な変化は見られませんでした。ハムストリングスの活動はわずかに増加したものの、統計的に有意な変化はありませんでした(P = 0.055)。脊柱起立筋の活動についても同様で、有意な変化は見られませんでした(P = 0.578)。

3. 筋活動の比率:

・大殿筋とハムストリングス、大殿筋と脊柱起立筋の筋活動比率についても、セラバンドを使用したIHAによる有意な変化は見られませんでした。これらの比率は、ブリッジ運動の両条件でほぼ同等でした。

4. 骨盤前傾角度:

・セラバンドを使用した等尺性股関節外転を取り入れたブリッジ運動では、骨盤前傾角度が有意に減少しました。具体的には、通常のブリッジ運動と比較して骨盤前傾角度が20.5%減少しました(P = 0.001)。この結果は、大殿筋の活性化が骨盤の安定性を向上させることを示しています。

 

5. 大殿筋と腰痛の関連性

大殿筋は、股関節の伸展と外旋において重要な役割を果たすだけでなく、骨盤の安定性を保つためにも重要です。大殿筋の弱化や活動低下は、以下のような腰痛の原因となることがあります。

1. 骨盤の不安定性: 大殿筋が弱いと、骨盤の安定性が低下し、これが腰痛の原因となることがあります。骨盤の安定性が低下すると、腰椎に過度の負担がかかり、腰痛が発生しやすくなります。

2. 代償作用: 大殿筋の活動が低下すると、ハムストリングスや脊柱起立筋などの他の筋肉が代償的に過剰に働くことがあります。これにより、これらの筋肉に疲労や緊張が蓄積し、腰痛が引き起こされることがあります。

3. 姿勢の崩れ: 大殿筋の弱化は、骨盤前傾や腰椎前弯の増加を引き起こし、これが腰痛の一因となります。骨盤が前傾すると、腰椎に不自然な圧力がかかり、腰痛が発生しやすくなります。

 

 6. 考察

セラバンドを使用したIHAを取り入れることで、大殿筋の事前活性化が促進され、ブリッジ運動中の大殿筋の筋活動が増加しました。この結果は、筋肉のプレアクティベーションが筋活動を高めるという既存の研究結果と一致しています。また、骨盤前傾角度の減少は、大殿筋の活性化による骨盤の安定性向上が寄与していると考えられます。

一方で、ハムストリングスおよび脊柱起立筋の筋活動には有意な変化が見られなかった点についても考察が必要です。健康な被験者を対象としたことや、ブリッジ運動中に使用した木製のターゲットバーが影響した可能性があります。これにより、過剰な骨盤挙上を防ぐことで、ハムストリングスや脊柱起立筋の過剰な活動を抑制できたと考えられます。

 

7. 結論

本研究は、セラバンドを使用した等尺性股関節外転を取り入れたブリッジ運動が、大殿筋の筋活動を高め、骨盤前傾角度を減少させる効果があることを示しました。これにより、セラバンドを使用したIHAを取り入れたブリッジ運動は、大殿筋の強化と骨盤の安定性向上に効果的な方法として推奨されます。

 

参考文献

Choi, S.-A., Cynn, H.-S., Yi, C.-H., Kwon, O.-Y., Yoon, T.-L., Choi, W.-J., & Lee, J.-H. (2015). Isometric hip abduction using a Thera-Band alters gluteus maximus muscle activity and the anterior pelvic tilt angle during bridging exercise. Journal of Electromyography and Kinesiology, 25(3), 310-315.

この論文紹介は、セラバンドを使用した等尺性股関節外転がブリッジ運動中の大殿筋活動と骨盤前傾角度に与える影響に関する研究の結果を基に作成しました。この研究の詳細については、上記の参考文献を参照してください。

 

他の文献紹介:

思春期特発性側弯症(AIS)患者におけるシュロス運動プログラムの効果:監督下と自宅でのアプローチの比較

 

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