『ウエイトトレーニング中に発症した腰痛の症例〜腰椎屈曲症候群に対するアプローチ〜』

  • 2023.11.13
  • ∵ 整体

症例

26歳の大学生がウェイトトレーニング中に腰と左下肢に痛みを発症しました。トレーニング中に90kgの負荷を背負い、うつ伏せの状態で膝を曲げていた際、背中で破裂音を感じ、同時に強い痛みが発生したと報告しています。この出来事を機に特定のエクササイズを中断したものの、他のトレーニングは続けていたそうです。

クライアントは大学の研究室で働きつつ、1日に2〜3の授業を受けています。座位時には腰と下肢に激しい痛みを感じ、ハムストリングの損傷を自己診断した結果、前屈のストレッチを実施しています。このストレッチは痛みを伴いますが、後にはいくらか痛みが軽減するようです。

怪我から2ヶ月後、当院を紹介されました。その間も厳しいトレーニングを継続しており、事故の原因となったトレーニングのみを避けていました。過去に左膝を怪我し手術を経験しており、それ以来ランニングは避けてウェイトトレーニングに専念していたと語っています。

症状

クライアントは疼痛が出現して以来、床で寝ています。痛みを和らげるために両股と膝関節の下に枕を置いていましたが、姿勢を変えるだけで痛みが増します。座位時の痛みは腰部と左大腿部後面で7〜8/10の強さです。また、椅子から立ち上がる際の痛みはさらに激しくなります。立位時の痛みは4〜5/10で比較的軽度です。アキレス腱と膝蓋腱の反射は正常で、足関節や膝関節周囲の筋力低下はなく、感覚検査も正常です。

 

運動分析

・前屈: 前屈を行うと、腰痛と大腿後面の痛みが悪化します。前屈から戻る際には症状が軽減します。体幹の重みを手で支え、股関節の屈曲だけで前屈しても症状は悪化します。

・側屈・回旋: これらの動きでは特に問題は見られません。股関節の柔軟性: 股関節屈筋群の短縮はありません。

・股関節外転・外旋: これらの運動による代償動作や疼痛の増悪は見られません。

・片脚立位: 左脚を持ち上げた状態での右片脚立ちでは症状の増悪が見られます。下肢伸展挙上: 仰向けで左下肢の伸展挙上を行うと、股関節屈曲60°で疼痛が出現します。

・横向き寝姿勢: 横向きで寝るときの症状の増悪は見られません。

・うつ伏せ: うつ伏せで寝ると下腿外側面に放散痛が現れますが、腹部に枕を入れると症状が緩和します。

・座位: 座っている状態で腰椎を屈曲させると症状が増強します。

 

筋肉の長さと筋力の分析

・腹直筋の硬さ: 腹直筋は硬く、これが腰椎後彎(腰の曲がり)の一因となっている可能性があります。

・筋力: 顕著な筋力の低下は見られません。ただし、背筋群は腹直筋ほど顕著に隆起していないことが観察されます。

 

症状の考察

・脊柱の屈曲と圧迫: クライアントは脊柱を屈曲させたり、脊柱に圧迫力を加えたりすることで症状が悪化することが観察されます。また、左側の股関節屈筋群(特に腸腰筋が関与している可能性が高い)の収縮によっても症状が増強します。

・症状の軽減: 立位や仰臥位では症状が軽減します。下肢を伸ばす検査が陽性であっても、股関節の伸筋群をリラックスさせると症状は軽くなります。

・前屈と回旋検査: 前屈によって症状は増強されますが、回旋検査では症状の悪化は見られません。

・診断: 観察される症状は、座骨神経に沿った放散症状を伴う腰椎屈曲症候群と診断される可能性があります。

 

施術内容

・腰椎の安定性を促進するエクササイズ:クライアントには四肢の動作時及び日常活動において腰椎の安定性を高めるエクササイズを指導しました。特に脊柱への過度な圧迫を避けることを強調しました。

・ウエイトトレーニングの調整: クライアントの要望に基づいて、上半身強化プログラムを継続しつつ、頭上でのウエイトリフティングや症状を悪化させる可能性のある運動は避けるよう指示しました。

・誤解の訂正とアドバイス: ハムストリングのストレッチに関するクライアントの誤解を訂正しました。また、長時間の座位や腰椎の過度な屈曲を避けるようアドバイスしました。

・背臥位でのエクササイズ: 腹筋を使いつつ、股関節と膝関節を伸ばす運動を行い、症状が現れるポイントで停止するよう指導しました。

・その他のエクササイズ: 股関節の外転や外旋、側臥位での股関節の内外転、腹臥位での膝の屈曲と股関節の回旋(枕を使用)、四つ這い位での腰椎の伸展運動及び後方揺さぶり運動を指導しました。

・座位でのエクササイズ: 股関節の屈曲を避け、膝の伸展運動を行うようにしました。

・立位での運動: 神経伸張の徴候を考慮し、症状の悪化の可能性があるため、立位での運動は推奨しませんでした。

 

施術結果

・経過観察: クライアントは2週間ごとに来院し、約4ヶ月の治療を受けました。

・治療効果: この期間中、彼は四つん這いの姿勢から後ろへの揺り動作を症状なく行えるようになりました。また、腹臥位での症状発現も枕なしで改善されました。

・残存する制限: ただし、45分以上の座位と前屈動作には制限が残っています。

・下肢伸展挙上試験: 陰性となり、左右一側ずつの膝関節完全伸展が可能になりました。座骨神経症の症状も出ませんでした。

・筋力向上プログラム: 背筋群の筋力向上プログラムを開始し、腹臥位で腹部の下に枕を置きながら片側の肩関節を屈曲するエクササイズから始めました。体幹を伸ばす動作で、左足のしびれを避けました。同様に四つん這いでの肩関節屈曲エクササイズも実施しました。

・6ヶ月後の状態: 6ヶ月後には45分以上の座位が可能になり、ウエイトトレーニングプログラムは極めて軽い重りを使用して再開しました。立位または座位でのトレーニングは以前の90kgから現在は25kg以下に減量しています。ただし、前屈動作は依然として体を支える必要があります。

参考図書)

ヤンダアプローチ―マッスルインバランスに対する評価と治療 

 

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