『乳がん手術後の回復に関する論文紹介:METテクニックとマリガンコンセプトの有効性』

  • 2024.2.25
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はじめに:

乳がんは世界中で多くの女性に影響を及ぼす病気であり、その治療の一環として行われる手術、特に腋窩切除は、患者さんの身体に深刻な影響を与えることがあります。腋窩切除は、乳がん細胞の拡散を防ぐために腋窩(脇の下)のリンパ節を取り除く手術です。この手術は、上肢の機能や姿勢に直接的な影響を与えることが知られています。手術後の回復過程で、患者さんは肩の可動域の低下、上肢の痛みや腫れ、さらには姿勢の変化など、様々な問題に直面することがあります。これらの問題は、日常生活の質を著しく低下させる可能性があり、適切な治療が必要です。当整体院では、このような乳がん手術後の合併症に対処し、患者さんの生活の質を向上させるために、最新の研究に基づいたアプローチを採用しています。特に、マッスルエナジー・テクニックとマリガンモビライゼーション手技を組み合わせることで、これらの合併症を効果的に改善し、患者さんの快適な日常生活への復帰をサポートしています。

問題点:
腋窩切除を伴う乳がん手術を経験した患者さんが直面する主な問題点は、肩の可動域の制限、上肢の機能障害、および姿勢の悪化です。これらの問題は、手術による物理的な介入だけでなく、リンパ節の除去に伴うリンパ液の流れの変化によっても引き起こされます。

1. 肩の可動域の制限:手術による瘢痕組織の形成や、手術部位周辺の筋肉の緊張は、肩関節の可動域を制限します。これにより、患者さんは腕を上げたり、身体をひねるなどの基本的な動作に困難を感じることがあります。

2. 上肢の機能障害:リンパ節の除去は、腕の腫れや重だるさを引き起こすことがあり、これが上肢の機能障害に繋がります。患者さんは、日常生活で必要な持ち上げや握る動作において、力の低下や痛みを経験することがあります。

3. 姿勢の悪化:上肢の痛みや不快感は、無意識のうちに体のバランスを崩し、不良な姿勢を引き起こすことがあります。これにより、背中や首の痛み、さらには長期的な姿勢の変形につながる可能性があります。

これらの問題は、患者さんの日常生活の質に大きな影響を与え、物理的な痛みや制限だけでなく、心理的なストレスや社会的な孤立感を引き起こす可能性もあります。したがって、これらの問題に対処するための適切なリハビリテーションアプローチは、患者さんの全体的な回復と生活の質の向上に不可欠です。当院では、これらの問題に対して、個々の患者さんの状態に応じた適切な治療計画を提供し、乳がん手術後の回復をサポートしています。

 

乳がん手術の種類や手術後の一般的な合併症

乳がん治療における手術は、病状や患者さんの状況に応じてさまざまな形態があります。主な手術の種類には、以下のようなものがあります。

1. 乳房温存手術
• この手術では、がん細胞とそれを取り囲む正常な組織の一部を除去します。
• 乳房の形をできるだけ保持することを目的としています。
2. 全摘出術
• 全摘出術では、全乳房を除去します。
• 乳房再建手術が同時に行われることもあります。
3. センチネルリンパ節生検
• 乳がんがリンパ節に転移しているかどうかを確認するため、最初の数個のリンパ節(センチネルリンパ節)を取り除き、検査します。
4. 腋窩リンパ節郭清
• 腋窩のリンパ節を除去する手術で、がんの転移を防ぐ目的があります。

手術後の合併症は多岐にわたりますが、一般的なものには以下のようなものがあります。

リンパ浮腫:リンパ節の除去や損傷により、腕や胸部に液体が溜まり、腫れる状態です。
感染や出血:手術部位における感染や出血は、手術後の合併症として比較的一般的です。
瘢痕組織の形成:手術によって生じる瘢痕組織は、時に痛みや不快感を引き起こします。
神経損傷による感覚の喪失または変化:特に腋窩リンパ節郭清後には、腕や胸部の感覚の変化が起こることがあります。
筋肉機能の低下:手術による筋肉の損傷や瘢痕組織の影響で、肩や腕の動きに制限が生じることがあります。

これらの合併症への対応として、適切なリハビリテーションや症状管理が不可欠です。当院では、乳がん手術後の患者さんが直面するこれらの問題に対処し、快適な日常生活を取り戻すための包括的なサポートを提供しています。

研究の詳細:
この研究は、腋窩切除を伴う乳がん手術後の患者さんの上肢と姿勢に対するリハビリテーション手法の有効性を探求するために行われました。研究の目的は、マッスルエナジー・テクニックとマリガンモビライゼーション手技の単独および組み合わせた効果を評価することでした。

1. 参加者:この研究には、腋窩切除を伴う乳がん手術を受けた90名の女性が参加しました。これらの参加者はランダムに3つのグループに分けられました:マッスルエナジー・テクニックのみを受けるグループ、マリガンモビライゼーション手技のみを受けるグループ、そして両方の技術を組み合わせて受けるグループです。

2. 介入方法
マッスルエナジー・テクニック:この技術では、特定の筋肉群に対して積極的なストレッチと筋収縮を組み合わせることで、筋肉の調整と柔軟性の向上を図ります。
マリガンモビライゼーション手技:このアプローチでは、関節の動きを改善するためにゆっくりとしたパッシブな関節モビリゼーションが行われます。

これらの介入は6週間にわたって行われました。

3. 測定方法
研究では、治療前、治療後、および8週間のフォローアップ時に、以下の点について評価が行われました。
肩の可動域:肩関節の動きの範囲と柔軟性。
上肢の機能:痛み、力の強さ、日常生活での上肢の使用の容易さ。
姿勢の評価:立位時の身体のアライメントとバランス。

4. 結果の解析
結果は、各治療群間で比較され、治療の種類ごとに、上肢の機能、肩の可動域、および姿勢に与える効果が分析されました。

この研究は、乳がん手術後の患者さんに対するリハビリテーションのアプローチをより深く理解し、効果的な治療計画を立てるための重要な情報を提供しています。当院では、この研究の知見を活用し、患者さん一人ひとりのニーズに合わせた個別の治療プログラムを提供しています。

結論:
この研究から得られた結論は、乳がん手術後の患者さんに対するリハビリテーションにおいて、マッスルエナジー・テクニックとマリガンモビライゼーション手技を組み合わせたアプローチが特に効果的であるということです。以下の点でその重要性が強調されています。

1. 総合的な治療アプローチ
 ・両技術を組み合わせることで、上肢の機能改善、肩の可動域拡大、姿勢の正常化といった複数の面で顕著な改善が得られることが示されました。
・この組み合わせは、単一の技術よりも優れた結果をもたらすことが証明されており、リハビリテーションにおいて複合的なアプローチを取ることの効果を裏付けています。

2. 持続的なフォローアップの重要性
・研究結果は、治療後の短期間での改善を示す一方で、8週間のフォローアップ時点での効果のいくつかは低下していました。
・これは、持続的な治療効果を保つためには、定期的なフォローアップと、必要に応じた追加的な治療が重要であることを示唆しています。

3. 個々の患者に合わせた治療計画
・患者さん一人ひとりの状態、ニーズ、回復のペースに合わせた個別の治療計画の重要性が強調されています。
・個別化されたアプローチは、患者さんの特定の問題点に対処し、より効果的な回復を促進します。

結論として、この研究は乳がん手術後の患者さんのリハビリテーションにおける最適なアプローチを提供し、患者さんの生活の質を向上させるための重要な洞察を提供しています。当院では、これらの知見を活用し、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供することで、全体的な健康と幸福をサポートしています。

参考文献:

J Clin Med 2024 Feb 08; 13(4)

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